
※これはアンチエイジング物語です。
大学時代、僕は目立たない存在だった。教室の端っこの席で、ノートを取るふりをしながら、いつも彼女を目で追っていた。
彼女──佐伯美咲。明るくて、誰とでも分け隔てなく接して、男子からも女子からも人気があった。僕にとっては、眩しすぎる存在だった。
当然、話しかけることなんてできなかった。せいぜい、同じゼミのグループワークで必要最低限の会話を交わすだけ。それなのに、僕は勝手に彼女に惹かれて、勝手に落ち込んでいた。
何度も告白しようとして、何度も心の中で諦めた。
(どうせ俺なんか眼中にないだろう)
(イケメンの〇〇と付き合ってたって噂も聞いたし)
気づけば卒業して、社会人になり、それぞれの道を歩んでいた。彼女のことは、心の奥にしまい込んだつもりだった。
…それから20年。
僕は今、40歳を超えた独身の営業職。忙しさにかまけて身なりも気にせず、気がつけば頭皮も薄くなり、肌もくすんでいた。
そんなある日、大学のゼミ仲間から同窓会の案内が届いた。名簿には、佐伯美咲の名前があった。
(今さら…会っても意味ないだろ)
そう思いつつも、心の奥にしまったはずの気持ちが、ふつふつと湧き上がった。
そしてふと、鏡の中の自分を見たとき、愕然とした。
「…これじゃ、さすがに終わってるな」
それからだった。僕がアンチエイジングに目覚めたのは。
最初は抵抗があった。スキンケアなんて、女がやるもんだと思ってたし、育毛剤もなんだか負けを認めるみたいで悔しかった。でも、始めてみると面白かった。
洗顔後の肌がしっとりしている感覚。ジム帰りの爽快感。少しずつ、鏡の中の自分が変わっていくのが分かった。
1年後、同窓会の会場で再会した彼女は、やっぱり綺麗だった。でも、前ほど遠い存在には感じなかった。
「えっ…高橋くん? びっくりした、全然雰囲気違うね」
「ああ…色々あって。見た目くらいは、せめて整えておこうかなって」
照れながらそう答えると、彼女は少しだけ頬を緩めて、僕を見つめた。
「なんかさ、大学のときより、かっこよくなったね」
その言葉に、ずっと塞いでいた何かがほどけた気がした。
思い切って言った。
「実は、あの頃、ずっと君に憧れてた。何も言えなかったけど、今ならちゃんと伝えられると思って…来てよかった」
彼女は驚いたように目を見開き、それから小さく笑った。
「なんとなく、そんな気がしてた。でも…今の高橋くん、前とは全然違うよ。本当に素敵になったね」
この瞬間のために、僕は変わってきたんだと思った。

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