
※これはアンチエイジング物語です。
1章:いつもの「2ブロックで、あとはおまかせ」
「どうしますか?」
いつものように、近所の床屋の椅子に座る。
注文はいつも「2ブロックで、あとおまかせ」。
仕上がりも、だいたい予想がつく。
切られている間、テレビのワイドショーをぼんやり見て、
ひげ剃りの時間は軽く寝る。
それが“散髪”というものだと思っていた。
そんな生活が、もう20年以上続いている。
2章:ふと気づいた“老け見え”の衝撃
ある日、会社のトイレでふと鏡を見たとき、なんだか自分の顔が疲れて見えた。
「…なんか老けたな」
髪にツヤがない。
サイドが膨らみ、トップはペタンコ。
もみあげもなんだか古臭い。
後輩社員のキラキラした髪型と並ぶと、
自分の“生活感”が異常に際立って見えた。
「オレ、このままでいいのか……?」
3章:「美容院」という未知の空間
数日後。会社の帰り、スマホで「メンズ 美容院 大人 おすすめ」と検索。
なぜか指が震える。
——そして、予約完了。
場所は表参道でもなく、銀座でもなく、駅近の「メンズ専門美容室」。
当日。
清潔感のある店内、オシャレな音楽、アロマの香り。
「あの…予約してた田中です…」
なぜか声がワントーン低くなる。緊張している。
案内された席の前には、大きな鏡と、笑顔の美容師さん。
ヒゲは整っていて、白いシャツが似合っている。
「今日はどうされますか?」
その瞬間、頭が真っ白になった。
4章:「おまかせ」が、まさかの未来を変える
「……全部おまかせで」
美容師さんは優しくうなずき、丁寧にカウンセリングを始めた。
「髪質はちょっと硬めですね。頭の形も綺麗なので、トップに少しボリュームを出すと若く見えますよ」
「顔の骨格がしっかりしてるので、サイドは少しタイトにして清潔感を出しましょう」
「スタイリング剤は、あまりベタつかないマットタイプがおすすめです」
——こんなに自分の髪のこと、誰かに真剣に分析されたのは初めてだった。
カット中の会話も心地いい。
無理に話させようとせず、絶妙な距離感。
5章:鏡の中に、知らない自分がいた
そして、仕上がり。
鏡に映る自分を見て、思わず固まった。
「……これ、オレ?」
トップはふんわり立ち上がり、顔まわりはスッキリ。
目元が明るく見え、なんだか肌まで若返った気がする。
「すごく似合ってますよ」
美容師さんの一言に、不覚にもグッときた。
6章:自分に“手をかける”ということ
帰り道、駅のガラスに映る自分が、少し自信ありげに歩いていた。
会社に戻ると、後輩が言った。
「田中さん、髪変えました?なんか…若く見えますね!」
たかが髪型、されど髪型。
誰かに整えてもらうこと。
自分を少しだけアップデートすること。
それは、「まだここからカッコよくなれるかもしれない」と信じるための第一歩だった。
エピローグ:床屋もいい。でも、美容院には可能性がある
40代は、「今さら」ではなく「今から」の年代だ。
ずっと同じ髪型、同じ生活、同じ自分で満足してるならそれでいい。
でも、少しでも「何か変えたい」と思うなら、まずは髪から始めてみてほしい。
——40代で初めて美容院に行った男が、ここにいるのだから。