
※これは妻目線のアンチエイジング物語です。
私は、離婚を決意していた。
結婚して20年。子どもたちは独立し、二人の時間が増えるはずだったのに、夫との会話は年々減り、表情もなくなっていた。
テレビとスマホ、たまに「風呂」と「飯」の単語が飛んでくるだけの毎日。
恋愛感情なんてとっくに消えていた。
私は、女としての人生を諦めたくなかったのだ。
そんなある日、ネットで「熟年離婚 準備」と検索した私の心は、決まりかけていた。
あの日の夫は、老けていた
夫はここ数年、驚くほど老けこんでいた。
背中は丸くなり、髪は薄くなり、肌はカサカサ。
会話に覇気がなく、いつも疲れているような顔。
「年齢だから仕方ない」と思いたかったけれど、どこかに諦めが滲んでいた。
昔、私を笑わせてくれたあの人は、もういない。そう思っていた。
そして、私の中で静かに離婚の決意が芽生えていった。
変化の兆しは、小さな「違和感」だった
ある日曜日、夫が珍しく鏡の前で自分の顔をじっと見ていた。
「……なんか、最近疲れて見えるよな」
ぽつりとつぶやいた言葉に、私は耳を疑った。
それからの彼は少しずつ変わっていった。
夜遅くまでスマホで何かを調べている。
スーパーで、私より野菜の栄養価に詳しくなっている。
毎朝の洗顔後に、化粧水をトントンとつけている姿を見たとき、私は思わず笑ってしまった。
「なに? 女子高生?」
「違ぇよ。男のアンチエイジングってやつだ」
照れ隠しのように笑う夫の顔は、どこか昔の彼に似ていた。
変わっていく“外見”と“中身”
数ヶ月後、夫はまるで別人のようになっていた。
週に3回のウォーキング。
脂っこいラーメンを断ち、毎朝青汁とフルーツのスムージーを作っている。
スキンケアに興味を持ち、髪も育毛剤でふんわり。
少し引き締まった身体に、姿勢も良くなり、服のサイズも一回りダウン。
でも何より変わったのは「目の輝き」だった。
「なあ、最近どう?俺、少し若返った?」
不安げに尋ねてきた彼の目を見て、私は泣きそうになった。
ずっと欲しかった“心からの会話”が、そこにあった。
私の心にも変化が訪れた
彼が変わるにつれて、私の心にも小さな変化が起きていた。
冷めきっていたはずの気持ちが、揺れていた。
一緒に出かけたショッピングモールで、他の女性が彼を二度見するのを見たとき、
私はほんの少し嫉妬した。
「今日の服、似合ってるよ」
「そうか?ありがとうな」
そんな何気ない会話が、こんなにも嬉しいなんて。
私の知らないうちに、夫は“また好きになれる人”になっていた。
アンチエイジングは、ただの見た目じゃなかった
夫は私のために変わったわけじゃない。
彼自身が「もう一度人生を楽しみたい」と思ったのだろう。
でもその姿は、私にとって何より嬉しい贈り物だった。
見た目が若返ることで、自信が戻る。
自信が戻ると、言葉が変わる。
言葉が変わると、関係も変わる。
私は気づいた。
アンチエイジングは、夫婦関係さえも若返らせる。
そして今日、私は“離婚届”を破り捨てた
今朝、夫がコーヒーを淹れてくれた。
香ばしい香りと一緒に、ふわりと笑顔が届く。
「最近、お前もキレイになったよな」
「え?なにそれ、どうしたの急に」
「なんか……お前と、もう一度ちゃんと向き合いたいと思って」
言葉が詰まった私は、ただ「うん」とうなずいた。
書きかけの離婚届は、破って捨てた。
涙が出るくらい、清々しい朝だった。
最後に──一緒に、また恋がしたい
私たちはまだ、終わっていなかった。
年齢なんて関係ない。
何歳になっても、変わることはできるし、愛し直すこともできる。
アンチエイジングは、夫婦の奇跡を起こす。
そして私は、もう一度、あの人と恋を始める。
「あなた、最近ほんとにカッコいいよ」
そう言える私も、きっと若返っているのだろう。