
※これはアンチエイジング物語です。
序章:静かな金曜の夜、新宿にて
「やっぱりこの時間のビールは格別だな」
そう言いながら、山本健太はジョッキを傾けた。向かいには、学生時代からの親友・佐藤修が座っている。
2人とも40歳。学生時代からの付き合いは25年になるが、人生の歩み方は大きく違っていた。
健太は都内で一人暮らしをして10年近く。離婚歴があり、今は独身。
修はずっと実家暮らし。通勤はやや面倒だが、家賃も光熱費もかからないのが魅力だという。
「アプリ、やってみたら?」と健太が言った。
「出会い系?ああ、最近のマッチングアプリってやつか。まあ……見るだけ見てみるかな」
その何気ない一言が、二人の違いを“明確に浮き彫りにする出来事”へとつながっていく。
第一章:一人暮らしという名の「見えないステータス」
健太の部屋は、都内の1LDK。広くはないが、掃除が行き届き、シンプルで落ち着いた空間だった。
観葉植物がさりげなく置かれ、間接照明が部屋全体を柔らかく照らす。
キッチンには最低限の調理器具と、数日分の作り置きが保存された冷蔵庫。
「人が来ても恥ずかしくない部屋にはしてるつもりだよ」
健太はそう言う。特別オシャレにしているわけではない。けれど、“生活している人間の部屋”であることが伝わる。
実際、マッチングアプリで知り合った結衣と初めて会った日。カフェでの会話は自然と盛り上がり、帰り際に健太の部屋に寄ることになった。
「なんか……落ち着きますね。お部屋」
そう言って笑った結衣の表情を、健太は今も覚えている。
第二章:実家暮らしの安心と落とし穴
一方、修の暮らしはというと、築40年の実家の二階。部屋には大学時代に貼ったままの映画ポスター。
壁の色は日焼けしてくすんでおり、床には古びたカーペットが敷かれていた。
「生活には困らないし、母さんが全部やってくれるからな」
洗濯物はたたまれて部屋に置かれ、食事は毎日用意される。
冷蔵庫もトイレもお風呂も共用。「家族と暮らす安心感」はあるが、どこか“止まった時間”がそこにはあった。
そんな修も、健太に触発されてマッチングアプリに登録。
数日後、「結衣」という女性とマッチしたことに驚く。
実はその結衣、健太と出会った女性と同一人物だった。偶然か、必然か——。
第三章:結衣の視点
健太の部屋で感じた「安心感と信頼」
初対面の日。健太と結衣は会話のテンポが合い、気づけば3時間以上も話していた。
「ひとり暮らしって大変じゃないですか?」
「まぁ、たまに面倒だけど、気楽だよ。掃除してないと誰もやってくれないしね(笑)」
その軽い冗談に、結衣は「ちゃんとしてる人なんだな」と思ったという。
部屋に招かれたときも、無理して作った感のない自然な清潔感に好印象を抱いた。
「こんな部屋に住んでる人なら、ちゃんと将来のこと考えてそうだな」
その夜、結衣の中で「この人、ありかも」が「この人、いいかも」に変わった。
修の「実家暮らし」に感じた違和感
数日後、結衣は修と会った。話し方は丁寧で、外見も清潔感はあった。
だが——食事の後、何気なく放った一言が、空気を変えた。
「帰り、うち寄ってみる?母さん、まだ起きてると思うし」
「えっ……実家なんですか?」
一瞬の沈黙。修は照れくさそうに笑い、「楽だよ、家事やらなくていいし」と続けた。
その瞬間、結衣は“現実”を感じた。
「この人は40歳になっても、生活の自立すらしていないのかもしれない」
そう思った自分に、罪悪感すら抱いた。
だが、それ以降、LINEのやりとりは少しずつ減っていった。
結衣が返信をしなくなった理由は、誰にも語られることはなかった。
第四章:男たちの分かれ道
数ヶ月後。健太と結衣は交際を始め、少しずつ互いの生活に溶け込んでいた。
「健太さんと出会って、恋愛ってちゃんとした生活から始まるんだなって思った」
結衣はそう語る。
一方、修は、未読スルーされたままのアプリの通知にため息をつき、
スマホを置いてテレビをつけた。母が食後のコーヒーを持って部屋に入ってくる。
「修、もう40なんだから、そろそろ自分のことは自分でやったら?」
その言葉は、いつになく刺さった。
第五章:修の変化、そしてこれから
年が明けて間もなく、修は小さなワンルームを借りた。
人生で初めての一人暮らし。
ゴミ出しの曜日を確認し、洗濯機の操作に戸惑いながらも、自分で買った家具を一つずつ並べていく。
部屋に友人を呼べる日もまだ遠い。でも、自分の時間、自分の選択、自分の責任を感じる日々が、少しずつ修を変えていった。
そしてある日。彼は再びマッチングアプリを開いた。
最終章:まとめ 〜部屋は生き方を映す鏡〜
一人暮らしが正義ではない。けれど、自分で自分を支える生き方は、40代だからこそ価値がある。
それは生活力や清潔感といった表面的なことだけでなく、“人生を引き受ける覚悟”のようなものだ。
40歳。まだ遅くはない。
自立の一歩は、住まいから始まる。
そしてその一歩が、未来の誰かの心に届くかもしれない。
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